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「もう別れる」


喧嘩した時につい出る、いつもの口癖のような台詞だった。
なのに。


「わかった。晋助がそう望むならそうしよう」


そう言って、俺一人部屋に残して出て行ってしまった。
一人暮らしのワンルームのアパート。決して広くはないはずなのに、すごく広く冷たく感じた。
時々、携帯を開いてはみるが何も変わらない画面が見れるだけ。


「なんだよ‥‥‥こんな、簡単に終わっちまうもんかよ」


パタンと携帯を閉じる。
何度も何度も開いては、同じ数だけ閉じている。

たわいもない喧嘩だった。
いつもの言い合い。
うっとうしいことばっかりいってくるアイツにムカついてきて、いつもの台詞を吐いた。


「もういい。お前、鬱陶しいんだよ!もう別れる!」


いつもならそこでアイツが折れて謝って、仲直り。のパターンの筈だったのに。
今回は違った。
アイツから‥‥万斉から承諾の返答が返ってくるなんて思いもよらなかった。


「晋助は、それで良いのであろう?」

「お‥‥‥前は、それでいいのかよ」

「そうでござるな。正直、拙者も少々疲れ申した。晋助のことは好きであったが、毎回毎回別れると言われるとさすがの拙者もへこたれる。これで、終わりだ」


そういって溜め息を吐いた。

『好きであった』

その過去系の言葉にショックを受け、もう言葉を発することさえ出来ない俺は、ベッドの上で抱えた足に顔を埋めたまま、万斉が静かに出ていく音を聞いていただけだった。
バタンと重いドアの音を聞き、ああ、終わったんだ、と思った。

嘘つき。
万斉の、嘘つき。
あんなに好きって言ったのに。
ずっと一緒だって言ったのに。

次から次へと涙が出てくる。

でも、追い詰めたのは自分。
ずっとアイツを否定する言葉ばかり吐いてきた。
嫌になられても当たり前。
万斉は、俺が言った言葉でどれだけ傷付いてきたんだろう。
俺が、また次に別れるって言い出すのを待っていたのだろうか。
あきれてたんだろうか。

出会いは偶然。
バイト先のライヴハウスで隠れてタバコ吸ってたら、吸うんならもっと堂々とするか完全に隠れてするかどっちかにしろって言われたのがきっかけ。
たまたま仕事で見に来てた万斉は大人の雰囲気を持っていた。新人発掘の仕事をしてるらしく、そのスラリとした体にスーツを着崩している姿は、男の俺でも見惚れるものだった。

付き合い出してから益々口煩くなり、縛りつけるような物言いに苦しくなった俺は暴言の数々を吐いていた。
本気で別れたほうがいいかも?と思うときもあるが、万斉が俺にゾッコンだってのはわかってたから、絶対、ありえないと思っていた。

なのに‥‥‥今、そのありえない状況に陥ってる。


「万斉ぃ」


一度口に出せば愛おしく。


「万斉、万斉、万斉。‥‥‥‥俺、俺、やっぱり、やだ」


名を呼べば呼ぶほど溢れてくる涙。
優しい万斉の顔や声、全てが頭を駆け巡る。

−−−−−行かなきゃ。

万斉に、謝りにいこう。
謝って、どうにかなるのかわからないけど。
元に戻れるなんて確証はないけど。
でも、でも、なにもしないよりはマシ。
今は、万斉に会いたい。

涙を手の甲でグイッと拭い、スニーカーを履き玄関のドアを開ける。
階段を四階分駆け降りると、アパートの入り口の植木のところに座っている黒い影が見えた。


「ば‥‥ん‥さい?」


黒い影に向かって、小さく声をかけた。


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あきゅろす。
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